グレゴリオ暦/2012.11.10 UP  カテゴリー「月の万葉歌

【 月の万葉歌 】
天の海に 雲の波立ち 月の舟 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ

日本最古の和歌集である『万葉集』(8世紀後半)には、
天皇から防人まで
身分を超えた詠み人たちによる4500首以上もの歌が
全20巻にわたって収められています。

文学的価値はいうまでもありませんが、
万葉集には古代の記憶がまだ新しい
万葉の時代のひとたちの心情や考え方、
自然観などを理解する手助けになる貴重な資料としても、
とても高い価値があります。

歌われる内容は季節や自然風景、
男女の恋愛、哀悼など。
月を詠みこんだ歌もたくさんあるんです。
ここでは、
そんな「月の万葉歌」をご紹介していきます。

※万葉集に収録の各歌には通し番号が振られて整理されています。歌の最後に記した数字がそれで、たとえば(3巻178)とあったら「万葉集 巻第3 178番」の歌という意味になります。


 さて、まず今回は中でも比較的よく知られた柿本人麻呂の歌。ウェブでもいろいろなサイトでよく紹介されているので、ご存じの方も多いことでしょう。

    天(あめ)を詠(よ)む
  天の海に 雲の波立ち 月の舟 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ

                              (7巻1068)

 原文は「天海丹 雲之波立 月船 星之林丹 榜隠所見」。解説を引くまでもなく、そのまま情景が浮かんでくるような歌ですが、小学館の『日本古典全集 萬葉集 二』(小島憲之 木下正俊 佐竹昭広 校注・訳)では「天の海に 雲の波が立ち 月の舟が 星の林に 漕ぎ入って隠れるのが見える」と現代語訳されています。

 それにしても「月の舟」「星の林」とはロマンあふれる、なんともシャレオツな表現ですよね。月の欠けた部分がへこんで舟の形に見えるのは上弦前か下弦後。といっても下弦以降になると星空を背景に月が移動していく様子を見られるのは深夜から朝方にかけてとなり、題材となった情景が見られる時間帯としてはあまり適当な感じがしません。しかし三日月から上弦にかけてのころの月なら日が沈んで星の見えはじめた南~南西の空にまさに舟の形であらわれるので、歌に詠まれたのはこのころの宵の口の風景なのではないかと思います。

 上にあげた『日本古典全集 萬葉集 二』によりますと、月の舟とか星の林というのは当時の漢詩などに見られる漢風の表現だそうで、なるほど舶来の新鮮なワードを和歌に導入することで最先端のモードを取り入れつつ ”あまり和っぽくない” 雰囲気をねらって描き切った、人麻呂のクリエイターとしての力量にうならされます。

 また前半の「天の海に」「雲の波立ち」といった表現もよく考えてみれば、だいぶ大陸風の印章。「天」という言葉もそうですが、右のようにクルクルと渦を描いて湧き立つような「雲」がいくつも風になびいているイメージなど、いかにも古代中国の神仙思想的です。政治から芸術まで道教が当時の日本のすみずみにまで影響を及ぼしていたことがわかります。

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