和暦を知る

06. 和風月名

稲作のサイクルと結びついている?

◇無文字時代の倭語(やまとことば)が残る和風月名

 和暦では1~12月の各月には睦月(むつき)、如月(きさらぎ)、弥生(やよい)…といった別の名称があります(新暦になって以降も使われていますね)。/p>

 和風月名といいますが、最古の記録としては『日本書紀』(8世紀)に登場しており、2月を「キサラギ」、3月を「ヤヨイ」、4月を「ウヅキ」、5月を「サツキ」…といった具合に現代とまったく同じ読み方の訓注が記されています。

 訓注というのは訓読みのヨミガナのこと。『日本書紀』はすべて当時の国際語である漢文で表記されていますが、必要に応じて無文字時代の「倭語/大和言葉(やまとことば)」によるヨミガナが付されています。

 『日本書紀』は天地のはじまりから41代持統天皇の世(7世紀末)までを記した日本最古の歴史書ですから、「キサラギ」「ヤヨイ」などの和風月名には国家成立以前の倭(やまと)文化の古層の記憶が、より原型に近い形で残されている可能性があることになります。


◇年(とし)はもともと稲(とし)だった

 和風月名に古代倭語の記憶が残っているとすると、その意味を知ることは古代の原日本的な生活サイクルに触れ、理解することでもあるといえるでしょう。

 和風月名の起源ははっきりしておらず、その由来には諸説ありますが、なかでも最も注目したいのが、農事すなわち稲作サイクルに起源を求める説。

 それは、12か月を示す「年(とし)」という語自体が本来、時間の量や年齢のほか、「穀物」や「稲」「稲の実り」といった意味をもっているからです。かつては「稲」を「とし」と読んでおり、穀物や稲を収穫するまでの一連の農作業サイクルが転じて時間の単位である「年(とし)」に変化していったのでしょう。

 すべての和風月名の語源が稲作や農事に由来するとは必ずしもいえませんが、ここではほかの異説も含めて各由来を見ていきます。

 
 和風月名   月  由  来
睦月
(むつき)
1月 一般には、正月に家族や親族一同が仲良くそろって過ごすことから「相睦び月(あいむつびつき)」が語源と考えられているほか、稲の実を初めて水に浸す月という意の「実月(むつき)」から転じたとする説もあります。このほか、1年の最初の月ということで「元(もと)つ月」とする説も。
如月
(きさらぎ)
2月 草木が萌え出づるの意味で「萌揺月(きさゆらぎづき)」の略とする説、「草木張月(くさきはりづき)」の略とする説のほか、「陽気が更に来る」説や、『広辞苑』では誤りと断定されているものの、まだ肌寒い季節なので「衣更着」とする説などがあげられますが、とくに有力な候補はないようです。
弥生
(やよい)
3月 異説はほぼ見られず、「いやおひ」説が有力。ただしこれには水に浸した稲の実が「いよいよ」生え伸びるという意と、草木が「いよいよ」生い茂るという意の二説が唱えられています。
卯月
(うづき)
4月 一般には、卯の花の咲く時期の意とされていますが、稲種を植える月の意の「植月(うづき)」とする説、また「苗植月(なえうえづき)」から転じたとする説も。

なお『広辞苑』には「卯」が十二支の四番目であるから4月=卯月とする説が筆頭にありますが、その元になる陰陽五行による配当では十二支の「子」は11月であり、よって4月は「巳」にあたることから、これは誤りでしょう。
皐月
(さつき)
5月 早苗を植える月の意。さつきは「早月」とも書きます。田植えをする女性を「早乙女(さおとめ)」というほか、早苗という語もあることから「さ」が田植えに関連する語であることはほぼまちがいないとされます。田植え後の祭は「さのぼり」、田の神を「さんばいさま」(西日本)といいます。

ちなみに小正月(1月15日)に豊作を祈願して田植えの動作を模擬的に行う儀礼も「さつき」とわれます。
水無月
(みなづき)
6月 田植えが済み、田に水を注ぎ入れる月の意から「田水の月(たみのつき)」「水張月(みずはりづき)」「水月(みなづき)」説が有力。「な」を「無」と書くのは当て字であるため、一般にいわれる「5月の梅雨が過ぎて天には水が枯れて無いから」とする説はほとんど支持されていません。
文月
(ふみづき/
ふづき)
7月 稲の穂が実る意の「含み月(ふくみづき)」「穂含月(ほふみづき)」説が有力。七夕に詩歌の文をそなえたことから「文月」となったとするのは、あくまでも俗説のようです。
葉月
(はづき)
8月 稲の穂が張るの意の「発月(はりづき)」「穂張り月(ほはりづき)」から転じたとする説のほか、この頃は秋にあたることから「葉落ち月(はおちづき)」の略とする説などがあげられますが、定説はありません。
長月
(ながつき)
9月 一般的には秋の夜長で「長月」とする説が有名ですが、稲の穂が熟す刈り入れ時期の意で「稲熟月(いなあがりづき)」「稲刈月(いねかりづき)」から転じたとする説も。
神無月
(かんなづき)
10月 翌月の新嘗祭(にいなめさい。五穀の収穫を祝う重要な神事)の準備として収穫したばかりの米で新酒を醸す意の「醸成月(かみなんづき)」とする説が最も有力でしょう。このほか、単純に「神の月」、雷シーズン終了の意の「雷なし月(かみなりなしづき)」とする説も。

俗に八百万の神が出雲に集まるため、ほかの国々に神がいなくなる「神なし月」が語源と説かれますが、「神無月」は完全な当て字と考えられ、この説は弱いようです。
霜月
(しもつき)
11月 文字どおり霜の降る月とするのが有力。この月は宮中の新嘗祭のみならず、民間でも新穀を食す時期であることから「食物月(おしものづき)」とする説も。
師走
(しわす)
12月 年末でみな忙しく、師匠といえども走りまわるとする説が一般に知られている一方で、「師走」は当て字とも考えられ、年が終わる意の「歳極(としはつ)」説や、農事をすべて終えたとする意の「万事し果つ月(ばんじしはつつき)」から転じたとする説も有力です。

参考文献/『大言海』大槻文彦著(富山房)/『日本まつりと年中行事事典』倉林正次編(桜楓社)/『年中行事大辞典』加藤友康・高杢利彦・長沢利明・山田邦明編(吉川弘文館)/『広辞苑 第四版』新村出編(岩波書店)/『日本古代暦の証明』吉村貞治著(六興出版)

このウェブサイトについて特定商取引に基づく表記プライボシーポリシーお問い合わせ

Copyright © 2006-2020 88d All right reserved.