• ●読み方● 和暦=旧暦/月の出入=東京で月の中心が地平線に重なる時刻/(二)=二十四節気/(雑)=雑節/(節)
    =節句/(年)=年中行事/G暦=グレゴリオ暦 (新暦)/データ出典…暦要綱・暦計算室(国立天文台)/※月満ち欠け図は目安です。免責事項
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  • グレゴリオ暦/2019.04.02 UP  カテゴリー「こよみ , 和暦 , , 月の万葉歌

    新元号「令和」の出典と32首を読んでみる

    新元号「令和」。口にしたときの語感の新鮮味もさることながら、これまでの慣例から脱却して、その典拠を支那の古典ではなく、私たちの皇国日本が世界に誇る『万葉集』に求めた初の試みも斬新で、実によろこばしい気分になります。

     発表によれば「令和」の出典元は『万葉集』巻第五「梅花歌三十二首 并序」冒頭の「初春令月 気淑風和」(※并序の「并」は「併」と同じ「あわせて」の意)。天平二年(730年)正月十三日に筑前の大伴旅人(おおとものたびと)の邸宅で盛大にもよおされた満開の梅花を愛でる宴で、主催者の旅人が参加者たちに詠ませた歌32首を掲載した部分の序文中にあります。

     おもしろそうなので、例によって『日本古典全集 萬葉集』(小島憲之 木下正俊 佐竹昭広 校注・訳/小学館 昭和47年)の読み下し文と語註をおもな参考文献としつつ、角川と三省堂の古語辞典を片手に読んでみることにしました。

     超訳すると、序の内容はこんな感じです。

    「天平二年正月十三日、太宰帥(だざいのそち)旅人卿の邸に集まって宴を開く。ときは正月初春の令月(=ことを行うのに好い月、めでたい月 ※角川書店『古語辞典』による)で、気はよく、風はおだやかだ。梅は女性が使う鏡の前の白粉のように白く咲き、蘭は匂い袋のようにかぐわしい。夜明けの峰には雲がかかり、松はそれを薄い絹のようにまとっている。夕方の峰には霧がかかり、鳥はその霧に閉じ込められて林のあいだを迷っている。庭には新しい年の蝶が舞い、空には去年の雁が去っていく。ここに、天を屋根に地を座にして膝をつきあわせ、盃をまわす。みんな、ことばを忘れるほど楽しみ、なごやかにくつろいで、満ち足りた気分だ。いまのこころのなかを筆であらわそう。庭の梅を題に歌を詠もう」

     身近なコスメから幽玄な遠い峰へと引いていく、ダイナミズムあふれる視点の移動が感動的です。繊細でありながら力強い情景描写は、のちの狩野派による花鳥図もほうふつさせます。この序を書いたのは旅人か山上憶良といわれていますが、原文では旅人を「帥老(そちのおきな)」という尊称で表現しており、本人が自分を敬称で呼ぶのは不自然であることから、旅人ではなく憶良が旅人の身になって代筆したとも考えられています。まあ、研究者以外には、そんなことどっちでもいいですね。

     また『日本古典全集 萬葉集』によると、この序には書の世界の神的存在である古代支那の書家、王義之(おうぎし)の最も高名な作品『蘭亭集の序』から引用したスタイルが多くみられるとのことですが、『蘭亭集の序』は蘭亭という場所を会場にしてもよおされた宴の席で参加者が詠んだ27編の詩の序として、イイこころもちに酔った主催者の王義之が書いたものだそう。なるほど状況設定が旅人と同じです。

    大伴旅人が筑前に太宰帥(太宰府の長官)として赴任されたのは神亀五年ごろ。その少し前の神亀3年ごろ、山上憶良が筑前国守として着任しており、歌を通じてふたりは交流を深めたようです。

     天平二年正月十三日の「梅花を愛でる宴」当日の空に浮かぶのは、あと1~2日でまん丸に満ちようかという新年最初の十三夜月でした。しかも天平元年は八月からはじまっているので、天平二年の正月というのは新元号最初の正月にあたります。天平への改元は神亀六年八月五日、甲羅に「天王貴平知百年」の文字がみられる亀が聖武天皇に献上されたことを瑞祥として行われた改元で、慶賀なムードがとりわけ旅人ら官僚たちのあいだには強くあったでしょう。くわえて庭には満開の梅。宴にはおめでたいお膳立てが、これ以上にないぐらいそろっていたわけです。

     そういうわけで詠まれた歌が、次ページの32首です。序文を含めた全体をひとつの作品ととらえると、そこには雪月花がみごとに詠み込まれていることがわかり、日本美術、芸術の原点をみてとれます。このほか宴の参加者たちがいちようにテンション高めで、酒を飲みながら地位の差なく楽しんでいる様子も伝わってきます。

     「令」の字が連想させるキリリと引き締まった日本的美学。そして「和」がもたらすユルやかでシームレスな持続性。相反するようでいながら、どちらも日本ならではの美意識ではないでしょうか。「令和」の向こうに、万葉集が描き出す日本人の感性を見出せます。

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