• ●読み方● 和暦=旧暦/月の出入=東京で月の中心が地平線に重なる時刻/(二)=二十四節気/(雑)=雑節/(節)
    =節句/(年)=年中行事/G暦=グレゴリオ暦 (新暦)/データ出典…暦要綱・暦計算室(国立天文台)/※月満ち欠け図は目安です。免責事項
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    和暦1月1日
    若水(わかみず)/若水迎え

    新年最初にくむ水で「生(せい)」を改める

    ◆元日の未明に井戸や小川の水をくむ

     元旦に初めてくむ水を「若水(わかみず)」、若水をくみに行くことを「若水迎え」「若水くみ」とよび、この水でお茶を沸かして飲んだり、雑煮をつくるなど煮炊きに使ったりすることで無病息災や長寿、1年の無事を祈る風習が、かつては日本全国に見られました。

    海辺の地域では、井戸や小川の水ではなく海水をくみあげて神棚に供える例もありました。この場合は「若潮(わかしお)」「若潮迎え」などといいます。

     元旦の未明、朝まだ暗いうちから井戸や近くの小川へ向かい、新しくおろした桶や柄杓(ひしゃく)で水をくみあげます。多くの場合、これを行うのは年男(正月の神迎えを取り仕切る斎王のことで、その家の主人や長男がつとめる)の役割でしたが、西日本の一部では主婦など女性が行いました。


    ◆日本の宝をくみあげろ

     水をくむ際には水場に供え物をしたうえで言葉を唱えるなど作法が定められているケースもあり、唱えごとには「福どんぶり、徳どんぶり」(井戸で水をくみあげる道具「つるべ」の音から来ているらしい)、「よねくめ、松くめ、日本の宝をくみあげろ」(東京都西多摩)、「(米を供えたのちに)水おばくむまで、米をくむなり」(津軽)、「(柏手をふたつたたいて)ただいま若水をくみにきました。(と唱えてから米を供えて)こがねの水をくみます」といった例が見られました。


    ◆若水は若返りをもたらす月の水

     この若水迎え、もとは平安時代に宮中で立春の早朝に行われていた儀式ですが、和暦の「わ」の字は、「若水」のわでみたとおり、その背景には、日本古来の月信仰の記憶が横たわっていると考えられます。

     満ちては欠け、空からいったん消えたと思えば、またあらわれて再び満ちはじめ……と、消長を繰り返す月の姿に、かつての日本人は生命の死と再生を重ね合わせました。

       天橋(あまはし)も 長くもがも 高山も 高くもがも
       月夜見(つくよみ)の 持てるをちみず い取り来て
       君に奉(まつ)りて をち得てしかも
                     (『万葉集』13巻3245)

     上に引用した万葉歌では「天へと続く橋がもっと長くあってくれたら、高山ももっと高くあってくれたら、月夜見のもっている若水をとってきて、あなたを若返らせられるのに」といった内容が詠まれていますが、2行目「をちみず」という言葉の「をち」とは若返るという意味の動詞「をつ」の活用形で、「をちみず」とは「若水」をさしています。「月夜見」は月を擬人化したものですから、少なくともこの時代、月には若返りの力をもった水が存在しているという伝承がひとびとに広まっていたことがうかがえ、かつての日本人の月に対するある種の再生信仰が見てとれます。

     このことから若水が「月の水」の象徴であり、これを飲むことで若返る、再生を得ることができるという思考がその根底にあったらしいことがわかります。

     本来、若水とは若返りの水であり、だからこそ無病息災や長寿をもたらすと考えられたのでしょう。若水をくむとは、いわば「生」を改めること、真新しい「とき」を迎えることであり、正月の神迎えとひもづけられた儀礼といえます。


    参考文献/『日本まつりと年中行事事典』倉林正次編 1983(桜楓社)/『年中行事大辞典』加藤友康・高杢利彦・長沢利明・山田邦明編 2009(吉川弘文館)/『歳時習俗語彙』柳田国男著 1939(民間伝承の会)/『古代研究Ⅰ――祭りの発生』折口信夫著 2002(中央公論新社)